第5回 生体臓器収奪が社会に与える影響

第5セッションでは、生体臓器収奪が市民社会に与えるインパクトと広範にもたらされる影響について論じます。人権侵害は、計画された冷たい大量虐殺の一部として、被害者と加害者だけでなく、すべてのグローバル社会に影響を与えてきました。
2021年9月25日
1. Larisa Vilsker

ラリサ・ヴィルスカー

イスラエル:人権擁護者

土木技師を定年退職。祖母、母、娘。自分の家族がナチスドイツのホロコーストを体験。現在、自ら立ち上がり、「ノーモア迫害! ノーモア迫害!ノーモア殺戮!」というメッセージを掲げて中国での臓器収奪について啓発活動を行っている。

【日本語訳】

ホロコーストの問題は、私の家族にも個人的に影響を与えました。私の父は、1918年にワルシャワで幸せな大家族のもとに生まれました。ナチスがポーランドに侵攻したとき、父の近親者も遠縁者もほとんどがワルシャワ・ゲットーに収監され、幼い子供も含めてほとんどが死亡しました。父は奇跡的にソビエト連邦に逃れることができ、後に私がそこで生まれました。

子供の頃から、ホロコーストの恐怖、拷問、ナチスが強制収容所の囚人に対して行った実験について、直接話を聞いてきました。そして、戦後生まれの私にとっては、このようなことは過去のことであり、二度と起こらないと思っていました。

しかし、それから数十年後、イスラエルに移住し、現在、中国にも同じような強制収容所があり、人々は不法に逮捕され、投獄され、拷問を受けていることを知りました。中国では、外国人に売る目的で、囚人から必須臓器を収奪し、犠牲者の遺体は火葬されます。これは中国当局の認定のもとで、産業化しています。対象は?「真、善、忍」の理念に基づいて精神修養している道徳性の高い法輪功の人々です。この理念は、嘘と暴力に基づく中国共産党政権のイデオロギーとは正反対です。

家族がホロコーストの恐怖を体験したことから、私は無関心ではいられず、中国の法輪功学習者からの生体臓器収奪に反対せずにはいられません。2006年、私は「二度と起こってはならない:世界に訴える(Never Again: Appeal to the World)」と題する、ポーランドのアウシュビッツで開催されたフォーラムに参加しました。

全人類に対するこの脅威を阻止するために、全世界のコミュニティに呼びかけることが、私の使命だと自覚しています。

多くの国にとって、中国は有益な経済パートナーであり、多くの国が経済的に依存しています。ビジネスや政治的な利権のために、中国で起こっている恐ろしいことに目をつぶっているのです。

中国は私たちの住む国でありません。なぜわざわざ中国の問題を気にする必要があるのかと思われる方もいることでしょう。しかし、深く考えてみると、人為的な国境で隔てられているに過ぎません。すべての人々は、私たちの「地球」という共通の家に住んでいるのです。そして今日、この地球に正義を取り戻すという、実現可能なことに取り組む機会が、私たちに与えられているのです。

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2. Thierry Valle

ティエリー・ヴァレ

フランス:CAP―Freedom of Conscience 代表

国連承認のNGO、CAP-Freedom of Conscience(良心の自由のための団体・個人連合、フランス)の代表。20年以上にわたり、人権擁護者として積極的に活動し、世界の宗教と信仰の自由に関して幅広い経験を持つ。

【日本語訳】

まず初めに、生体臓器収奪に関するこの世界会議の主催者に感謝したいと思います。

「世界人権宣言(UDHR)」は、私たちの歴史の中で最も暗い時代の後に生まれました。20世紀の戦争、とりわけ第二次世界大戦中に行われた残虐行為によって、人間の尊厳に対する重大な侵害が行われたため、国際社会は一丸となって、人間の尊厳に対する犯罪の再発を防止するための宣言を行なったのです。

世界各国は、すべての人間の尊厳が、世界における人権、自由、正義、平和の本質的な基礎であることを認識し、人間の尊厳は、UDHRが基本とする、すべての権利、自由の源、基盤であることを思い起こしました。

UDHRの前文は下記の通りです。

「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である。」

その第1条は以下のとおりです。

「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、その尊厳と権利において平等である。彼らは、理性と良心とを授かっており、兄弟愛の精神をもって互いに行動しなければならない。」

私たちは今日、良心の囚人から同意のない臓器を強制的に摘出する「生体臓器収奪」の問題のためにここに集っています。移植やその他の医療手続きに用いられる行為です。

主な被害者は中国の法輪功学習者とウイグル人です。

生体臓器収奪は、人間の生命と尊厳に関する普遍的な倫理観、道徳理念を侵害する、実に危険な行為です。

中華人民共和国(PRC)の人権についての概念は特殊です。

中国は国連人権理事会のメンバーです。我々、NGO CAP Freedom of Conscienceは、4年以上にわたり、中国が人権に関するNGOや国連専門家の要請にどのように応え、中国が人権理事会にどのように影響を与えようとしているかを目にしてきました。

2017年、国連の中国に対する「普遍的・定期的レビュー(UPR)」第3回では、150か国から346件の勧告が提出され、多くのNGOから法輪功メンバーへの扱いやウイグル人収容所を糾弾する数十件の提議がなされました。

UPR報告書が手渡された際、私たちは、2018年に施行された宗教に関する新法を非難する口頭声明を発表しました。中国政府の管理下にないすべての団体への取り締まりをさらに強化する法律でした。法輪功や全能神教会のような一部の団体が完全に非合法化され、メンバーらは情け容赦なく追い詰められ、何万人もの人々が逮捕されています。禁止された団体で活動しているだけの理由で有罪判決を受け、拷問され、死に至ることもあります。

中国の外務次官である楽玉成(らく・ぎょくせい)は、UPR報告セッションに出席し、さらに中国のプロパガンダを広げ、「教養所(education camp)」とは、実は「(収容所を意味する)キャンプではなく(大学のような)キャンパス」であり、「最近新疆のいくつかのウィグル人センターを訪れ、卓球をしたりハラル料理を食べたりしてきた」と主張し、「キャンプ(収容所)は将来、閉鎖される」と主張しました。

但し、いつ閉鎖するかについては触れませんでした。

人権理事会のセッションには10回以上出席しました。セッションごとに中国の人権侵害を糾弾する国やNGOの数は飛躍的に増えましたが、中国の「内政干渉するな」という回答は変わっていません。

中国がNGOの信頼性と有効性を損なうために用いるもう一つの方法は、中国が自ら創設したNGOに中国寄りのプロパガンダを言わせることです。このような中国の管理下にあるNGOのメンバーを国際会議に送り込み、権力者による悲惨な人権記録から一般の目をそらせるために、虚偽の報告を行わせ、該当しない問題を提起させるのです。

これらの中国政府系NGOはGONGOと呼ばれ、超党派のふりをしながら中国の国家的課題を提示し、人々の真の声が国際社会に届くことを妨げています。

このようなGONGOの数は増加の一途をたどっています。

中国は自国の弾圧政策を正当化するために、西側諸国に潜入工作しプロパガンダを流しています。

数日前、フランスの日刊紙「リベラシオン」は、ヨーロッパの全大学がこの影響を受けている現象について、調査結果を発表しました。

リベラシオン紙が行った調査によると、中国は人権理事会の会期中に、中国政府は内政干渉を許さないと宣言しており、干渉があった場合、中国政府は躊躇せずフランスとヨーロッパの大学にプロパガンダを押し付けています。

リベラシオン紙の情報によると、学問の自由を損なおうとする中国の試みは、研究室における諜報活動のリスクと同様、現在、フランス政府が厳しく監視しています。

中国はフランスの大学に孔子学院を設立し、学術交流の名目で機会を利用してプロパガンダを広め、中国政府の公式の教義、例えば台湾の中国併合などに疑問を持つ学者や学生を攻撃しています。

ベルギーでは、2019年、ブリュッセル自由大学(Vrije Universiteit Brussel)内の孔子学院の中国人院長が、影響力のある学生や教師を諜報員に採用していたことが告発され、追放されました。この出来事のおかげで、ベルギーでは現状が認識されるようになりました。

中国政府のプロパガンダの影響は、フランスのメディアにも見られます。

昨年6月、国連の専門家は、中国で民族、言語、宗教の少数民族が捕えられ臓器収奪の対象になっているという「信頼できる情報」を得たという声明を発表しました。

フランスのAFP通信は、国連の専門家が発表した情報をそのまま報道しましたが、最後に「中国は法輪功カルトのメンバーから定期的に非難されている」という(偏見のこもった)文を加えています。

それでは、法輪功メンバーへの人権侵害や迫害に関して、国連や国際機関に提出された報告書の流れを紹介しましょう。

長年にわたり、市民社会と国連加盟国が中国の人権侵害を糾弾してきましたが、2021年6月14日に発表された国連専門家グループによる書簡ほど、臓器収奪問題を明確に打ち出したものはないでしょう。

昨年(2020年)、第44回の国連人権理事会において、国連の専門家たちは中国における基本的自由を保護するために断固とした行動を取るよう呼びかけました。

同会期中、欧州代表団は、中国の人権への懸念を改めて表明しました。同代表団は、対話形式の発表のなかで「我々はまた、中国に対し、その国際的な義務と人権を尊重するよう改めて要求する」と発言しました。

ドイツも39か国を代表し、新疆ウイグル自治区の人権状況や香港の最近の情勢について、共同声明を発表しました。

そして2021年6月14日、国連の専門家たちが、中国における臓器収奪について、改めて懸念を表明したのです。

内容を引用します。

「中国における臓器収奪は、特定の民族、言語、宗教的少数派を対象にしているようだ。法輪功学習者、ウイグル人、チベット人、イスラム教徒、キリスト教徒が、各地で説明も逮捕状の発行もなく頻繁に拘束されている。我々は、囚人や被拘束者が民族や宗教または信条に基づく差別的な扱いを受けているという報告を受け、深く懸念している。」

国連の専門家たちは、2006年と2007年にすでに訴えを発表しており、6月14日のプレスリリースでもこのことを指摘しています。

「遺憾ながら、政府の回答には、臓器提供の待ち時間や臓器提供源に関する情報などのデータが欠けていた。この意味で、利用可能なデータと情報共有システムの欠如は、人身売買された人の特定と保護、および人身売買業者の効果的な捜査と訴追をする上で、障害となる。」

現在、専門家たちは中国に対し、臓器収奪の疑惑に迅速に対応し、国際人権機構による独立した監視を可能にするよう再度要求しています。

では、国内および国際的な権威機関の見解、措置はどのような状況にあるのでしょうか?

長年にわたり、市民社会は国内および国際機関に対し、中国の壊滅的な人権状況について警告を発してきました。

今日、民主的な国家や国際機関が行動を起こそうとする動きはあります。しかし、今のところ、こうした善意が中国に対する拘束力のある措置に繋がっていません。

中国はその主張を変えず、国家や権威機関に内政や外交に干渉しないよう要求し、中国のプロパガンダに疑問を持つすべての人々を激しく攻撃しています。

中国は1988年に「拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」などに署名または一部署名しています。中国はこれらの条約基準を満たすべきである、という宣言や勧告を、我々は長年にわたり国連から受け取ってきました。

中国は、1998年10月5日に「市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」に署名しましたが、まだ批准していません。

そのため、中国はまだICCPRの具体的な規定に拘束されることはありません。しかし、署名国として、中国は誠実に行動し、ICCPRの趣旨を損なわないようにする義務があります。

市民社会が国家や国連機関とともに中国に対して行った勧告や成果は重要であり、今後の行動の支えにもなります。

中国にはこれらの勧告を受け入れる義務があるのでしょうか?ありません。

したがって、これらの勧告は無視されるべきで、人権擁護の手段として考慮されるべきではないなのでしょうか? いいえ、もちろん違います。

これらの勧告は、中国に「世界人権宣言」、並びに署名した条約への遵守を行使するために用いることができるのでしょうか? もちろんできます。

ご清聴 ありがとうございました。

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3. Antonella Marty

アントネラ・マーティー

アルゼンチン:アトラス・ネットワーク・ラテンアメリカ・センター副所長、作家

アルゼンチンのロサリオ出身。アトラス・ネットワーク・ラテンアメリカ・センター副所長、リベルタ財団(アルゼンチン)ラテンアメリカ研究センター長、ノーベル賞受賞者マリオ・バルガス・リョサが率いるシンクタンクである国際リベルタ財団(スペイン)のシニアフェロー。2015年から2017年までアルゼンチン議会の公共政策顧問。『The Intellectual Populist Dictatorship(知的ポプリズムの独裁)』(2015年)、『What Every Revolutionary of The 21st Century Should Know』(2018年)、『Capitalism: Antidote to Poverty』(2019年)。

【日本語訳】

演題:毛沢東の文化大革命と現在の中国

皆さん、こんにちは。このサミットに参加してくださってありがとうございます。開催者の方には、「生体臓器収奪の阻止と撲滅に関するための世界サミット」にご招待くださったことに心よりお礼申し上げます。

今日はまず、この問題の原点について少しお話ししたいと思います。中国がこのような状況に陥った根源には、マルクスとエンゲルスがあります。この二人の知識人の考えを実践したマルクス主義や共産主義のあらゆる試み、試練は、世界各地で見られました。この二人は、1848年に『共産党宣言』を著し、その瞬間から、血に飢えた大量虐殺、全体主義の種が撒かれることになり、大きな問題へと発展していきました。

中国のケースも強調したいと思います。中国共産主義の起源つまりその側面に焦点を当てる必要があります。毛沢東は、1893年12月に韶山の村で代々農業を営む裕福な家庭に生まれました。特にこの時点での彼の人生を正確に把握しておくことが大切です。

第二次世界大戦後、中国では毛沢東が権力を握り、1949年には中華人民共和国を成立させました。そこで何が起こったのでしょうか?アジア諸国は、共産主義、マルクス主義、あらゆる有害な思想に向かい始めたのです。歴史を通して世界中で試され、良い結果は一切もたらされませんでした。それらは人間の本質に反するものだからです。

1953年、毛沢東は「大躍進」として知られる運動を起こし、中国に存在するすべての財産を集団化しました。農業の集産化が始まり、農場は自主管理されたコミューンとなり、奴隷労働による増産が目標となりました。奴隷労働以外の何ものでもありません。共産主義の歴史において、どこであろうと常に行われてきたことです。そして、「作るべきもの」に反対したり、作らなかったりした者は、”反革命分子 “として刑務所に送られるか、銃殺されます。これは、キューバでも起きたことであり、このような思想が実践されている多くの国々では、今でも起こっています。

「大躍進」の直後には、中国で記録的な大飢饉が発生し、大量の死者が出ました。1959年から1961年にかけての出生数の減少に加え、不自然死が約4000万人に上ると推定されています。共産主義はその歴史の中で、中国全土で、そして今日に至るまで、人命を奪い続けています。「大躍進」は、おそらく世界でも前世紀最大の大飢饉でしょう。

毛沢東は、1954年に中国共産党を主宰し、政治に参加できる唯一の政党として活動していました(現在もそのままです)。毛沢東は、前政権の支持者や自分と同じ考えを持たない者、マルクス主義の考えに従わない者をすべて追放し、暗殺することにあたりました。

これらの背景はすべて、私たちが歴史的にどのような立場にあるのか、そして今日、中国全土で起きている複雑な人権状況を理解する上で有益です。

毛沢東は1966年に文化大革命を発動し、ソ連のスターリン主義に従い、数百万人の罪のない人々を抹殺しました。毛沢東と共産党が、マルクス主義の精神に由来しない文化とみなす、西洋音楽や中国の伝統文学などすべての痕跡が禁止されたのはこの時期です。

毛沢東の指導のもとで中国共産党が推進した指令は「資本主義の影響とブルジョア思想」の粛清を発動することでした。市民社会、政府、芸術、メディア、学校、大学など、社会のあらゆる分野で実行されました。1,600万から1,800万人の学生が「再教育」キャンプや強制労働収容所に送られました。これらの全ての事例は、共産主義政権下で見られるものです。これらの政権下では、人間の本質に反して人間を強制的に改造しなければならないのです。共産主義は常に「新しく(改造された)人間 」を提案してきました。

少なく見積もっても、文化大革命時の中国での不自然死の数は、800万人近くに達しています。これらの人々は、イデオロギーの名のもとで抹殺されたのです。

それでは、現在、どのように続いているのか、どのように時間をかけて進行しているかについてお話しましょう。中国の街角では、警察があらゆる反体制派を統制・迫害しています。人権侵害は日常茶飯事で、メディアは検閲されています。政治に反対することは厳格に禁じられており、政治犯が存在し、実質的に個人の自由は皆無で、人権は常に侵害されています。今日、このサミットで、私たちはこのような蛮行を暴露し糾弾します。

現在、中国では報道の自由や表現の自由(その他多くの自由)が著しく制限されているのが実情です。人々への弾圧も、それに劣りません。

中国共産党が行った数多くの残虐行為の1つに、法輪大法学習者への迫害が挙げられます。法輪大法は、今日このサミットに集まった私たち全員が知っているように、そしておそらく説明されているように、千年来の仏家の修行法で、道徳的な教えと穏やかな瞑想から構成されています。

法輪大法は、政治的な教義でもなく、経済的な理論でもなく、過激な抗議運動でもありません。法輪大法は、法輪功とも呼ばれ、古代中国の仏家の修行法であり、身心・精神を修め、向上させるものです。「真・善・忍」の三つの理念に基づき、修煉者はより良い人間として向上していきます。どんな人間でも、どんな生命でも、他人を傷つけることなく、完全に許され、受け入れられ、尊重されるべきことです。しかし、共産主義は歴史上、この三つの理念を拒絶し、この理念に沿って自らを修める人々を迫害してきました。

中国には5千年の精神文化があります。しかし、60年以上にわたり共産主義の独裁政権に支配され、数千年にわたる文化を破壊してきました。

精神性が空白になっている中、法輪大法は1992年から普及していきました。失われた伝統文化を復活させ、心身の健康に役立つとして、1億人以上が愛好するようになりました。中国共産党の法輪功への迫害には、洗脳、強制労働収容所での奴隷労働、殴打や電気棒による電気ショック、強姦、食餌制限など、人類史上、最も非道な方法が用いられています。そして、生きている修煉者からの臓器収奪の事実が、今日このサミットを開催するに至りました。

中国では数十年にわたり、おぞましい虐殺が行われています。このことは暴露され、明示されなければなりません。中国では、数百万人の法輪大法の修煉者が、中国共産党や共産主義体制のもとで殺害され、臓器が摘出・販売されています。角膜が3万ドル、肺が15万ドル、心臓が13万ドル、肝臓が10万ドル、腎臓が6万ドルで売られています。実に忌まわしい行為です。

2016年、調査チームによる前代未聞の報告書が発表されました。2000年以降、中国で臓器移植をしている数百軒の病院や移植センターの実態を詳細に文書化したのです。

少し前のことですが、私はアルゼンチンで開催された法輪大法学会の会議に参加する機会に恵まれました。”An Evil Never Seen on this Planet “(この地上でかつてなかった邪悪)と題されたこの会議では、中国で生きている人から臓器を収奪するという、あまり報道されていない状況についての報告がありました。中国の強制労働収容所や拷問を体験した生存者も二人出席していました。

一人は、ユ・ジェンジエ(Yu Zhenjie)さんという名前で、電気バットで顔を殴られるなど、信念を放棄させるために、さまざまな拷問を受けました。また、縛り付けられ極寒にさらされるという、人間としては考えられない状況にさらされました。実に過酷な拷問を受けました。強制給餌のため前歯は抜けました。別室に連れて行かれ、両手を縛り上げられ吊るされることもありました。彼女の過酷で生々しい体験に、私の心は様々な形で深く揺さぶられ、このような問題は白昼にさらすべきだと確信するに至りました。

中国共産党の始まりは、ソビエト共産党の管理下にあった第三インターナショナル(コミンテルン)の支部に遡ります。そのため、暴力、嫌がらせ、自由・人権の侵害などの行為を、当然ながら受け継いでいます。

最後になりますが、現在は、我々がやろうとしていること、現状を前に進めていくことにおいて、これまで以上に市民社会の役割が重要な基盤になると確信しています。皆さん一人一人がそれぞれの場所で果たすことのできる役割、つまり市民社会の役割は、全世界に嘘をつく血に飢えた政権に苦しめられている国の人々の自由を守るための基盤です。

私たちは、それぞれの立場や組織から、人権と自由を擁護し続けなければなりません。中国で起きていることを糾弾し、この国の隅々で起きていることを糾弾しましょう。私たちの手には、このメッセージを伝え、隠蔽、虚言、殺害、拷問に満ちた閉鎖的な制度に立ち向かうための、ユニークなツールがあります。

市民社会組織、シンクタンク、財団、メディア、クラブの会合、家族や友人の集いなど、可能な限りあらゆる場所で、共産主義の呪縛の中でようやく命をつないでいる世界数十カ国での苦しみのメッセージを伝える必要があります。この種のイベントで結果や変化を求める際に、メッセージを伝えるのは私たちであり、自由を擁護し続けるのも私たちであり、大切な市民社会に取り組むのも私たちです。

このサミットの主催者の方々に感謝します。この会議は、歴史の分岐点となることでしょう。参加してくださった皆様に心から感謝します。ありがとうございました。

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4. Maria Cheung, PhD

マリア・チャン PhD

カナダ:マニトバ大学社会福祉学部 副学部長

20年以上にわたる在職中、社会科学・人文科学研究評議会(SSHRC)やカナダ国際開発庁(旧CIDA)などの定評ある機関から多額の研究助成金を受け、カナダ、香港、中国で研究を行ってきた。法輪功の人権について、査読付きの学術論文を多数発表している。法輪功への『冷たいジェノサイド』(Cold Genocide)に関する彼女の研究は、「ジェノサイド研究・防止の国際雑誌」(International Journal of Genocide Studies and Prevention)の人気記事上位に格付けされている。

【日本語訳】

重要な世界サミットへのお招き、ありがとうございます。このセッションでは、生体臓器収奪の最大の被害者、法輪功の角度からお話します。

過去15年にわたり、有力な証拠により、穏やかに瞑想する法輪功のグループが、中国共産党(中共)政権が中国本土で行う、合意のない臓器摘出を基盤とする臓器移植産業の主な標的にされていると結論づけられてきました。この結論は、2020年に「中国での良心の囚人からの臓器収奪を調査する民衆法廷」”中国(臓器収奪)民衆法廷” でも肯定されました。 この残虐行為が「人道に対する犯罪」であることは広く受け入れられています。

しかし、私は、法輪功グループに対する物理的および非物理的な破壊を伴う「ジェノサイド(大量虐殺)」だと主張します。私は共著者と共に『冷たいジェノサイド』と名付けました。20年以上続いているにもかかわらず、隠蔽され、ほとんど気づかれることはありませんでした。徐々に絶滅させ、摩滅させていく大量虐殺であり、特定グループが隠蔽されて大量に殺されていく現象を反映しています。一般の人々は残虐な死を直接、目にすることはありません。

「ジェノサイド」という言葉は、1944年にラファエル・レムキンが造語しました。「民族集団の本質的な生活基盤を破壊し、その集団自体を消滅させることを目的とした、さまざまな行動を統合する計画」と定義しています。彼の定義は肉体的な破壊を超えるものであり、最近の「文化的ジェノサイド」の研究が言及する内容と一致します。

レムキンは、社会的または宗教的集団のメンバーであることを虐殺の対象とすることで、そこに共有する思考・共通する良心が存在することを示しています。単なる集団以上のものです。「文化的ジェノサイド」では、共通する良心の破壊が、ターゲットとされる集団の本質として定義づけられます。法輪功の場合、中国共産党政権が破壊しようとするこの集団が抱く心、つまり精神性が対象となっています。

1948年ジェノサイド条約 第2条は、4つの定義された集団(国家、民族、人種、宗教)の全体または一部を破壊する「意図」があることという定義を特徴としています。

法輪功(別名:法輪大法)は、「真・善・忍」の理念を修め、穏やかな5つの気功の動作を行う温厚な精神修養法です。この精神修養は西洋の宗教のパラダイムに合致するため、欧米の法的枠組みでは、法輪功を保護される宗教団体とみなしています。

90年代半ばの中国本土での法輪功の人気と爆発的な成長は、中国共産党のマルクス=レーニン主義のイデオロギーに対する道徳的・文化的な挑戦と見なされました。その数は中国共産党員数を上回りました。1999年7月、中国共産党の当時の指導者・江沢民が正式に法輪功撲滅運動を開始し、大規模な党大会を通じて口頭で、あるいは政府の各レベルに対する指令を通して、法輪功を完全に根絶するように命じました。つまり、「法輪功を3ヶ月で消滅させる必要がある」「彼らの名声を汚し、経済的に破綻させ、物理的に破壊する」という言葉から、現在の中国で行われている「ゼロ・アウト」運動に至るまで、全てが法輪功の壊滅に向けられています。

国際刑事裁判所の法理論によれば、集団の全てまたは一部を破壊する「意図」は、行われた残虐行為の規模や性質、影響を受けた集団メンバーの数、標的となった集団のメンバーに対する蔑称の使用、被害者を組織的に標的とすることなどの要因からも引き出すことができ、これらはすべて中国本土での法輪功撲滅運動にあてはまります。

文化大革命以来、目にすることのなかった、中国共産党(中共)の法輪功に対する激しい弾圧運動が発動しましたが、法輪功側の抵抗により、法輪功メンバーを完全に無力化することはできませんでした。中共による弾圧はその後、強制的に信念を捨てさせ物理的に破壊していくという長期的な段階へと移行しました。

法輪功を破壊する意図には、イデオロギーとそのイデオロギーに従う人々のふたまたに分岐されます。つまり、レムキンの枠組みでは、集団(法輪功)を消滅させることは、物理的および非物理的な方法で現れる、集団にとって中心となる特定の信念、献身、実践を消滅させることを意味します。臓器収奪はこの物理的な側面に、利潤を求める動機が付随しています。しかし、中共が最終的に目指すものは、肉体の破壊ではありません。「真・善・忍」というこの集団にとっての良心、この理念に沿った生き方、この理念との一体感が示すイデオロギーと文化が、中共にとって真の撲滅対象なのです。

法輪大法情報センターは、1999年以降、少なくとも数百万人の法輪功学習者が拘束されたと推定しています。イーサン・ガットマン氏の調査によると、2000年半ばには、常時50万から100万人近い法輪功学習者が労働教養所(通称、強制労働所)で拘束されていました。2020年には、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の大流行にもかかわらず、中国では迫害が絶え間なく続いています。

法輪功学習者は通常、610弁公室により強制労働施設や洗脳センター(別名:法教育センター)に違法に送りこまれ、いわゆる「教育改造」を受けます。実際にはこれらの国営施設で肉体的・精神的拷問を受けています。

迫害のメカニズムは、政府と共産党のヒエラルキーと統合して構成されています。610弁公室は法の規制を受けないゲシュタポと同様の存在で、政府のあらゆるレベルを管理する共産党からの命令を実行し、裁判にかけずに法輪功学習者を拘留し洗脳する権限があります。

また、中国での生体臓器収奪につながる指揮系統の不可欠な一部でもあります(中国臓器収奪リサーチセンター作成の指揮系統図から、複雑な関係をご覧ください)。

(参照:この指揮系統図の日本語版:メディカル・ジェノサイド 更新版 「中国での移植濫用―まやかしの改革)p.21「強制臓器収奪における中国共産党と政府省庁の役割」)

https://www.chinaorganharvest.org/app/uploads/2019/08/JP-booklet-20190806-web-ref.pdf

拘束された法輪功の被害者たちは、極めて劣悪な環境で長時間の強制労働を強いられています。無給であるだけでなく、通常1日16時間労働で、防護服も着けずに有毒な原材料を使用することがしばしばです。

被害者たちは疲労の限界に達する前に、法輪功を捨てるという誓約書への署名を強要されます。被害者たちは思想改造の標的として、睡眠を剥奪され、法輪功を中傷し非人間化する動画や文書を常に見せられます。訓練された心理学者が、法輪功学習者の意思を折り、信念を捨てさせる(転向)ためのプログラムの設定にあたっています。

これらの収容所では、転向率のノルマが設定されています。信念を捨てなければ、拷問や非人道的な扱いを受けることになります。15年間の臓器収奪の調査を通して、法輪功学習者は、採血や心電図など特定の身体検査の対象になっていることが判明しています。これらの検査は、中国の利潤の高い移植産業に供給するために、移植臓器の候補を選別するためであると医療専門家は確証しています。中国で法輪功難民が受けた拷問を対象に3カ国にわたって私が最近調査したデータでは、約75%が拘束中にこのような選別検査を受けていました。

臓器収奪または致死的な拷問は、身体的な破壊です。誓約書への署名は、精神的、社会的な死です。クラウディア・カードは、社会的死とは社会的活力の喪失であり、それはアイデンティティの喪失であり、自己の存在意義が失われることだと述べています。

撤回に署名した後に経験した空虚感について、法輪功の被害者が回答した内容が、私の研究データに収められています。自分の中の大きな部分が死んだようだったと語っていました。

釈放されても自由になるわけではありません。彼らは街頭に常駐する中共組織の監視下で、自宅でも職場でも、いつでも警察から嫌がらせを受ける状況にあります。法輪功を悪魔化、非人間化する中共の系統的なプロパガンダ活動のため、被害者は憎しみにさらされ、家族、隣人、信頼できる友人、同僚から孤立させられています。

社会的な死と精神的な死は、物理的な虐殺とは異なり、静かで血は流れませんが、根絶を追求する上で同様の深い効果を達成します。ジェノサイドという悪を理解する上で、中心となる事実です。

上記の物理的、非物理的な破壊の手段を通して、隠蔽され、目立たず、日常の状態で、継続しているジェノサイドが一般に認識されることなく、法輪功の被害者グループを最終的に絶滅させていくのです。

プロパガンダ戦略を通して、このグループは主流社会に腫瘍かウイルスのように見なされ、その存在は無視、拒絶、排除されてきました。このような常態化の結果、中国でも国際社会でも一般大衆は無関心になり、犠牲者を徐々に摩滅していく大量殺人「冷たいジェノサイド」を、20年以上にわたって繁栄させ維持させることが可能な環境を生み出してきました。

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ここでひとつ考えてみたいと思います。なぜ中共は経済、政治、文化的な資源を投入して、温厚な精神修養のグループの存在を蝕み、最終的に滅亡させようとしているのでしょうか?この質問をジェノサイドの角度から考えてみます。法輪功は中共に代わる人生の意義を人々に提供しています。つまり、中国を支配する中共は、自分達の文化的優位性、覇権的な政治権力、正当性を損なうと見なしているのです。

ダニエル・ファイアシュタインの言葉を引用します。「ジェノサイドによる破壊は、犠牲者を「無」にし、生存者は「自己」をなくす」 (2011年)。「大量虐殺を社会的に行うことは、社会のかなりの部分の殺害により自律と協調に基づく社会関係を破壊する。そして人々に恐怖心を与えることにより、新しい社会関係やアイデンティティモデルを作り出そうとする」。

1949年に中共が中国を統治して以来、国民に対して行ってきた軌跡を見れば、中国共産党が、チベット人、ウイグル人、地下のキリスト教徒、法輪功に対する大量虐殺に従事したことは容易に認識できます。社会構造を支配する中共のイデオロギーの覇権下にすべての国民が収まるまで、ひいては中国人の心を支配するまで続くことでしょう。

このような征服の試みは、例えば「一帯一路」構想のような、長期的に拡大し支配していくという、目立たない方法で、世界に持ち込まれることもあります。

結論

経済的な動機と並行して、臓器収奪は、法輪功という思想問題を取り除くための最終的な解決策として、発展してきました。法輪功撲滅運動は、恣意的な拘束、悲惨な拷問、法が適用されない殺害、隠蔽された臓器収奪など、国家が承認する甚だしい残虐行為の事例です。

私たちの怠慢、無知、無関心を隠れ蓑に、時間をかけて被害者集団の消滅を達成しようとする全体主義政権に現在直面しています。それは、被害者グループや中国国民だけの問題ではなく、世界市民にも共通する問題です。

これほどの犯罪は、ジェノサイドの視点から、人類を危機的な立場に追いやっています。

意義ある行動をとらずに、学問的な関心として議論するゆとりはありません。

この「世界宣言」は、行動の重要な一歩であり、より多くの人々が後に続く必要があります。

お招き、そしてご清聴ありがとうございました。この問題についての詳細は、「ジェノサイド研究・防止の国際雑誌」(International Journal of Genocide Studies and Prevention)に共著で発表した『冷たいジェノサイド』(Cold Genocide)と題する論文をご参照ください。

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5. Oskar Freysinger

オスカー・フレイシンガー

スイス:元議会議員

仏文学、独文学、ドイツ言語学の学士。元スポーツ選手、政治家。2003年からスイス連邦議会議員、2017年まで国民議会の参事官。その後、20冊以上の著書を発表し、独立した受賞作家として名声を築いている。

【日本語訳】

まず、この世界サミットの主催者にお礼を申し上げます。このような機会を与えてくださったことに感謝しております。

アルベール・カミュは、自伝的な小説『The First Man(最初の人間)』の中で、父親の印象的な言葉を引用しています。人間を真に尊重するすべてのヒューマニストのアプローチの基盤となる言葉です。ひどい拷問を受け、切り刻まれた2人の兵士の遺体を目にした彼の父は、「人間とは自制するもの」と言いました。

カミュの父の言葉は、人間は好き勝手に何でも行う権利はないという意味です。人間の内面には怪物が潜んでいます。人間と怪物の境界線は「NO」と言う勇気が形成します。この「NO」は、子供が個性化していくプロセスの始まりでもあります。

「NO」と言う方法を知ることで、個人は、集団・権威・イデオロギーなど、いかなる外圧からも影響されない自分を確立できます。「NO」と言うことは、目に見えない不変の法則が定める限界の受け入れを意味します。この法則を破ることは自分の魂を失うことです。ソフォクレスのギリシャ神話で、アンティゴネが叔父クレオンと対峙したときに言及したのはこの法則です。ゲーテが言う人間の運命を決定するものもこの法則です。法則が定める限界を超えた時、蛮行が起こります。

限界を超えることに「NO」と言う勇気だけが、真の人間の証となります。

「自制するもの」とは対照的に、たとえ卑劣な行為でも目的が達成すれば手段は正当化されるとする「The Prince」という題名のマキャベリの著書があります。目的のためには手段を選ばない訓戒に従えば、人間は無制限に利用されうる道具になってしまいます。一方、「自制するもの」には、自制があります。人間の存在それ自体が目的であり道具にはなり得ない、つまり、集団が抑制なく行う行動には従わないことが暗喩されます。

あらゆる唯物論的・無神論的な制度では、マキャベリの「The Prince」の訓戒が躊躇なく適用されています。どんなイデオロギーであれ絶対化され、目的達成の手段として利用されます。

このような制度では、外観を整え蛮行を隠すために、魂や人間の独自性を否定します。個人は無であり、集団がすべてであると主張することで、社会全体から意図的に人間性を失わせます。

「平等」や「社会正義」の名のもとで、集団の利益を中心とするアリ塚のように人間社会が形成されます。アリは生きるために営むのではなく、営むために生きるのです。皆同一であり、置き換え可能な存在です。簡単に入れ替えられます。従順で効率的であることがアリに求められる性質です。集団の機能にとって有用だからです。

14億人を赤アリの状態にしようとする中国共産党は、法輪功の精神性のアプローチを受け入れることができません。中国共産党にとって物質を超えたものは管理できません。物質を超越し、党の支配下から逃れる可能性のあるものは、容赦なく追い詰められます。

中国共産党は、敢えて当局に「NO」と言うものを「変質者」「害虫」呼ばわりして、人々の人間性を奪うことに躍起になっています。人間を単なる道具として、簡単に踏み潰せるアリと見なしているからです。

さらに悪いことに、中国共産党が「悪人」とするものの臓器を、「有用」で「従順」な、つまり「相応しい」同志のために利用します。中国共産党は、社会組織の利益のために個人の臓器を収奪する蛮行を、「悪」を「善」に変えることだと主張するのです。

存在の本質そのものが目的であり、独特でかけがえのないものだ、ということは受け入れません。極度な功利主義の制度による、極めて湾曲したアプローチです。

一方、一人ひとりの魂の存在を信じ、精神性を大切にする動きが存在します。目的を達成するのならどんな手段も正当化するということは受け入れません。目標に向かう一歩一歩の過程が、目的と同様に高貴で道徳に適ったものだと言う考え方です。種には木となる可能性を秘めた生命が宿ります。生命とは、それ自体が目的であり、何かを達成するための手段ではありません。

この本質を把握する者、自分自身(魂、エネルギー、道)が目的であることを自覚している者は、真の人間の証である不変の法則を自分の中に感じているため、自分を抑制します。

バロック芸術、ドイツ=ナチスの芸術、共産主義の芸術など特定された「国家の文化」を除いて、芸術は常に人権と人間の尊厳を蛮行から守る最後の防衛線の役割を果たしてきました。芸術家、そして広い意味での知識人は、民族、国家の「良心」といえましょう。芸術家、知識人は、尊い人間の身体的、道徳的な完全性に対するいかなる攻撃にも、行動と言葉を通じて非難する勇気を持たなければなりません。彼らは「NO」と言う方法を知らなければなりません。大気に漂うもの、大衆化、手段を曲げるよう要求するセイレン(訳注:ギリシア神話で、美しい歌声で近くを通る船を難破させたという海の精)の歌に抵抗しなければなりません。

しかし、中国共産党による法輪功学習者からの臓器収奪犯罪に関しては、芸術・文化界は重苦しい沈黙に包まれています。このような蛮行を糾弾する文化人はほとんどいません。

なぜでしょうか?

その主な理由の一つに、現在の文化界の95%が政治的な左派に位置しているからです。左派は、旧ソ連、中国共産党による文化大革命の蛮行、ポル・ポト政権による自国民の大量虐殺に対して「ニュルンベルク裁判」を適用したことはありません。過去と向き合えば、左派は全体主義的なイデオロギーの本質を認めざるを得なくなるでしょう。

これらの共産主義者、トロツキスト、毛沢東主義者は、しばしば社会主義者に転向し、自分たちの学派の大量虐殺の過去を無視し、今、中国で起きていることからも目をそらしています。イデオロギーの求めるものが重視され、彼らの寛容さと「ヒューマニズム」にはブレーキがかかっています。結局、退廃的なブルジョアジーの根絶という目的のために、自分達の理想をもってあらゆる手段を正当化します。実質上は彼ら自身が退廃的なブルジョアジーになっているのが現状ですが…。既存の組織に参入することを推奨し、資本主義を内部から覆すことによって、その実体を空洞にすることが、彼らの目的です。

しかし、押しの強い個人主義者、自由に飢えた精神を抱く芸術家たちは、自己と自らの芸術を裏切ることになります。狼と共に吠え始めるか、羊と一緒に鳴き始めますが、その声は、毛刈りや大量虐殺を呼びかける「政治的に正しい」怒号へと変わっていくのです。

真の芸術家たる者は、イデオロギーが定める真実に仕えるのではなく、アンティゴネ(訳注:ギリシャ神話。人間としての倫理の象徴)の心臓が鼓動する真実に仕えなければなりません。

芸術家は、恐怖や蛮行を隠蔽するために利用されないようにすべきです。芸術家は現実を超越し、人間の魂や世界の内面に存在する未知の空間次元を探ります。これが芸術家の威厳であり、使命であり、芸術家たる目的なのです。さもなければ、利用されて捨てられる単なる道具となることでしょう。

「技術は長く、人生は短かし(Ars longa, vita brevis)」と著述したヒポクラテスは、「ヒポクラテスの誓い」により人類の医療倫理の根幹を確立しました。しかし、ポストモダニティでは、技術は長続きしないアイデアと化してしまい、その一方で人生は長引き、人々は吐き気や退屈さを覚え、自己嫌悪に陥っています。

超人間主義(Transhumanism)では、社会工学の必要に応じて、人間を無限に変化させる組立キットとみなす社会が生み出されます。社会を科学的に計画することができると人々に信じ込ませようとする蛮行です。

そして現在、モダニティは、「実利主義的」医療、あえて言えば「獣医学的」医療に傾きつつあります。「馬を撃っても良いのだから、その原理を人間に適用してはどうだろうか。臓器を摘出して移植に利用できるのなら、なおさらだ」と言うものもいるでしょう。

「目的が叶うなら、手段は正当化される。憎むべきカルトのメンバーが死ぬことで他の生命に役立てることができるなら、自制する必要はない」。このような愚かな言い訳が、中国では何十年も通用してきました。中国では、自制する者が自制しない者の犠牲となり、最悪の不正行為が行われているのです。

この悲惨な虐殺を認識してきた多くの人々は、「中国共産党の権力を前にして、わたしたちに何ができるのか?」と意気消沈しています。

このような状況下にあるとき、芸術家は常に自らの芸術表現を通して、非難し、暴露し、認識できる空間を生み出してきました。ピカソの『ゲルニカ』、ゴヤの『1808年5月3日』、そしてイエス・キリストの磔刑を表現した作品の数は計り知れません。

恐怖を表現し、犠牲者の苦しみを表現し、犠牲者の魂が浮かばれるようにすることは、教訓的な演説で内容を薄めることなく、直接、問題を非難できます。

エリック・マリア・レマルクの小説『西部戦線異状なし』、オットー・ディクスの『戦争三部作』、ハクスリーやオーウェルのディストピア、ソルジェニーツィンの『収容所群島』、その他多くの作品は、権力やイデオロギーへの飢えにより変質した世界を、自己満足に陥ることなく、そのままの形で映し出しています。

「収奪の三部作」や「法輪功の試練」は、いつになったら文学、絵画、映像で表現されるのでしょうか。ある死が他の死よりも軽いということはあり得るのでしょうか。犠牲者の血に塗れた犯罪でも、いわゆる崇高な大義名分のもとで行われているから、比較的おぞましくないと言えるのでしょうか?

「人間は自制するもの」と認識する人類が、最後に反抗の叫びを上げるのはいつのことでしょうか?

凝結する時間すら経っていない血の池に新たな血が注がれることを避けるためには、自分の玄関先を掃除して手本とするだけで十分かもしれません。日々の生活で、注意深く微々たる犯罪に関わらないようにすることで、大量虐殺を煽ることを避けられるかもしれません。

集団犯罪に対処する唯一の方法は、一人ひとりが個人的に姿勢を示すことではないでしょうか。

自分に嘘をつくことを否定し、臆病な気持ちからの、または自己を守るための「沈黙」を否定することが、最初のステップです。自分を見つめ、自分に正直に問いかけることで、自分の行動に変化が生じてきます。

このような前向きな行動を積み重ねることによって、最終的に大衆の無力化を克服することができます。群衆に隠れて罰せられることなく犯されてきたことを、大衆一人ひとりが自制することで防止できるのです。歴史上かつてなかった行動です。

1789年にも1917年にも、平民は自制する方法を知りませんでした。そのたびに、悪そのものと同じくらい、いやそれ以上に血なまぐさい救済策を採ってきました。血に血で対抗しても何の解決も得られません。

カミュの父は「人間とは自制するもの」と言いました。この地球のすべての居住者が「自制」できれば、犬にさえ手を下さないようになることでしょう。

「NO」と言うことの最初の手本は、芸術家たちが示せます。拷問者自身が(実は制度に利用された)犠牲者だと理解させる強力な表現手段があるからです。

最初のキリスト教徒が殉教してから2000年後、今度は中国でアリになることに甘んじている人間たちの手で、最後の「真の人間」が犠牲になっています。

アリは数によって定義されます。アリは自制できません。

 

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